ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

W.H.ホジスン「幽霊狩人カーナッキの事件簿」

幽霊狩人カーナッキの事件簿 (創元推理文庫)

幽霊狩人カーナッキの事件簿 (創元推理文庫)

随分昔に角川ホラー文庫で出てたのは知ってたけど、未読のまま絶版品切になってた一冊、目出度く復刊しました。何故だか分からないがおどろおどろしいイメージがあって(多分角川版の装丁による自分勝手なイメージングだ)、いざ読んでみたら割りとこう、爽やかなイメージ?で驚くことしかり。いや爽やかってことは無いか。

隠秘学小説と推理小説は極めて親しい関係にあり、どちらも「謎を解く」ことが物語の重要な位置を占める。よって以下多大にネタバレを含むため購読など予定されている方は注意。いやしかしこれ面白かったなー。特に予定などない、という向きにもオススメできる…か?*1




これ本当に100年近く前に書かれた小説なのか?と驚いた。カーナッキ君のキャラクターは今の眼で見ても非常に楽しい。珍しい事件に遭遇したら家に友達を4人も呼んで晩御飯をふるってまでして是非とも自慢して話して聞かせてやりたいっ!とゆーぐらいの人なのに口調その他はぶっきらぼうも良いところで少しも表に出しません。毎度毎度話が終わればサッサと追い払う割りに毎度毎度友人を呼びつけ、おまけにちょっとでも話の端緒を取られるとプンスカむくれだします。

なんという釘宮。

傍若無人なところは探索過程に於いても変わらずそのままで、いやまて家主にナイショで合鍵とか作るなw廊下の甲冑を勝手に着込むなwwでも本当にヤヴァいものに出くわすと(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル逃げ出して来た。とゆー話を実に偉そうに語る。

モルダー、あなた疲れてるのよ。

真空管を利用した「電気式五芒星」なる当時最先端(であろう)な器具を駆使するところは実にユニーク…けどあんまり役に立ってないてゆーかむしろ使うたんびに大ピンチじゃねーか

つまり「幽霊狩人カーナッキ」はワガママでドジなツンデレ王子なんだよ!なんだっ(ry


ここで終わらせたらとんだコメディだけれど、それだけでは無かった。オカルトというものを作品中でどう捉えるか、例えばそれに反対する側や懐疑的な要素をどう持ち込むかってことは割りに重要だと自分は思っているのだけれど、本書はそこが面白かった。

これ怪奇超常現象の謎を解くことが主題の連作短編集だが、半分ぐらいの話は怪奇現象でもなんでもなく人為的犯罪だったりする。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」というやつで、もしそのタイプを一編だけ読まされたら激怒したと思う(苦笑)「超常現象はある!」「超常現象などない!」*2を全部ひとりでやってる、更に言うなら全肯定でも全否定でもなく、ケースごとに「是々非々」の判断をちゃんとやっていくところが良し。

アニメしか見てないけど「ゴーストハント」ってそんな感じだったよな。

今現在自分が触れられる「オカルトもの」のこれは確かに源流なのだと、ひどく感じ入った。著者ホジスンが第一次世界大戦で戦死という酷く現実的な最期を遂げた事はまことに悔やまれ、もっと多くの幻想を描いて欲しかったなと思うんだな。

何故って?

カーナッキの本当に面白い部分は事件の謎が霊的であれ人的であれ、それが解明されるまでは等しく同様に「謎」であり「怪奇」であり「恐怖」なのだと描いているところだからだ。後年ラヴクラフトが語った例のあれ、

人間の感情のなかでもっとも古く、もっとも強烈な感情は恐怖である。 そしてもっとも古く、もっとも強烈な恐怖は、未知なるものへの恐怖である。

を先んじているような面があり、それを「正体を見るまでは枯れ尾花だって幽霊だ」といういわば逆説的に且つ極めて真面目に「未知」を「恐怖」として描き、それが大変に面白かった。

カーナッキ・依頼人・警官合わせて大の男8人が心底(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブルして逃げ出してきた怪奇がじつはいたずらでした、てへ。とゆー顛末を偉そうに語るのだからこやつめワハハという気分にはなるのだけれどw

この感覚、理解してもらえるだろうか?

*1:正直に言うと大受けはしないだろうと思われる。むしろよくこれ角川で出したもんだなあ

*2:「超常現象などないッ!…あ、ごめ、やっぱあった!!どうしよう!?」というような両者が同居する話もあるw