51番目の密室〔ハヤカワ・ミステリ1835〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
- 作者: クレイグ・ライス,クリスチアナ・ブランド,カーター・ディクスン,コーネル・ウールリッチ,ロバート・L・フィッシュ,早川書房編集部
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/07
- メディア: 新書
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「天外消失」*1の姉妹編に当たる、オリジナルアンソロジー「37の短篇」から12篇を抜粋した短篇集。前作と合わせて26篇が読める訳で残りの11篇が当然気になるところではある。他で刊行されてるとはいえ入手の難しい物もあるわけで。
今回はクレイグ・ライス、コーネル・ウールリッチ、カーター・ディクスンなど知った名が多く、またずいぶん昔にジュブナイルにアレンジされた物で知ったロバート・アーサーの表題作「51番目の密室」を完全な形で読めたのが嬉しい。アレをアレしてどーこーというトリックはしっかり記憶してたんだけど、殺人動機の方はさっぱり覚えてなかった――か、あるいは割愛されてたかだ――し、アメリカ探偵作家クラブのメンバーが実名でバンバン登場する楽屋ネタ風味の作品だとは知らなかった。そういうノリなので最後の独白もアイデア至上主義的な作家姿勢への皮肉が効いてて楽しい。
とりわけお気に入りなのはヘレン・マクロイの「燕京奇譚」でしょうか。「拳匪の乱」(「義和団の乱」ですな)が勃発するよりも前、爛熟し切った時代の清朝帝都北京を舞台にした、デカダンス満載な一本。西欧諸国公使達の視点に立って異世界というか異空間を彷徨うような、読んでいて何か濃厚なモノにどっぷり浸かっていくような、読書行為そのものが楽しい逸品。トリックや謎解きは単純で「推理」小説としては…だが怪談奇談の類として面白いのです。事件が解決されても誰も咎を受けない、そういう時代を背景にした作品で、その後の「時代」が関係者達を無慈悲に処断していくってこれ良いなあ、うん。退廃的な人たちは、いずれ本当に退廃するということか。西洋人の中にあってひとり日本公使のキアダ伯爵が謎めいて良いキャラクターに思えるのは、単に個人的な贔屓の引き倒しだと思うが。
クリスチアナ・ブランドの「ジェミニイ・クリケット殺人事件」は巻末対談でも絶賛されている傑作だが、作中で用いられてるあるトリックは「古畑任三郎」でこんなのあったなーとか思う。収録されている作品群では最新のもの(1968年作)が、現代では参照作品としての古典的地位を確立しているということか。もっともそのアイデア自体果たしてクリスチアナ・ブランドのものなのか、それ以前に定石化してたものなのかは自分にはわからない。何れにせよ絶賛されてるのはトリックやアイデアではなく作品の内容であって、その価値はいまでも古びない、と思います。