- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2008/08/25
- メディア: 文庫
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ちょっと前に出た本。デビュー当初は欠かさず読んでた恩田陸も最近では当たり外れの差が大きなひとで、しかしこの作品は近年なかなかのアタリであった。
過去に起きた事件の謎を、様々な人間の証言から形作っていく様はちょっと「Q&A」*1に似ているか。「なにか」を書かない方が書いてしまった作品より面白いのは恩田陸の特徴で、本書では「書く」と「書かない」のギリギリ、瀬戸際のようなところで終わらせている。真犯人も動機も「たぶん、こういうことなんだろう」と読者には判るけれども本文では暗示に――極めて強力な暗示に――とどまっている。そういう所に、面白さがある一冊。
こういう話を読んでいると現実の犯罪報道で犯人の動機が云々されるのはどうしてなんだろうなと考える。司法の現場でなら動機によって情状酌量や更生手段が問われる可能性はあるのだろうけれど、犯人逮捕後のすべて興味本位でなされるワイドショー的な犯行動機のあて推量ってありゃなんだろうね。異化差用のひとつだろうとは思うんだが…
「読んでいて不安になる」リーダビリティの高さも著者の特色として挙げられることだけれど、本書においては本文よりもあとがきにあたる「ユージニア・ノート」を読んでいると不安になる。果たしてこの著者や装丁家やフォトグラファーが実に、楽しそうに、語っているのはこの本についてのことなの?全然違うじゃん!?
…なぜなら彼らは主に初版のハードカバーについて語っているからである。その辺の面白さは文庫化でスポイルされてんだろーなーと、「ドミノ」も角川だったもんなぁと、最後にカバー折り返しを見ながらしみじみ考えさせられる(笑)