ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

恩田陸「夢違」

夢違

夢違

まあ…恩田陸らしい作品です。人が就寝中に見た夢を記録保存・再生できる技術が確立した世界で起こる謎の集団ヒステリー(?)とか登場人物全員思わせぶり過ぎにも程がある言動とかストーリー中盤で唐突に起こる神隠し騒ぎとか、いかにも典型的な恩田陸だ。風呂敷の拡げかた、謎の撒き方は例によって秀逸で、幸いなことに手堅く着地して物語に一応の決着は見る。謎の解明には随分と御都合主義的…というか主人公を蚊帳の外に置いて端役の人物が視点の枠外で勝手に話をまとめちゃうような一種の乱暴さはあるのだけれど、最後の最後で社会の変容も何も無関係にひどく個人的な焦点に落着させてるからそれはそれでいのかな。あまりその、周囲の事情は無関係です。このラストだったら主人公(いま気がついたけど名前を覚えていないぞw)を妻帯者にしない方が良かったんではないか…と思うのは独り者のひがみですかそうですか。


どうもね、ガジェットやテーマそれ自体にはあんまり意味が無くてただ著者一流の「筆致」を読まされたような感が強いのはなぜだろうね。神隠しも奈良の古刹も、これまでなんども採り上げられてきたモノだけにああまたか、と思わされたのも事実なのだけれども。


エラくスピーディーに読み終えたなと思ったらこれ一文終わると必ず改行してるのね。そりゃページ数の割りに読みやすいわけです。もとは新聞連載だったそうだけど一度の分量どれぐらいだったんでしょ?


ほんでいまやってる(らしい)テレビドラマの「悪夢ちゃん」って本書が原作…というか原案なのか。へぇー


ただねー、「夢を記録して再生する」っていう本作の根幹を成す設定が、単にビデオ映像・音声をモニターで視聴するという20世紀的な技術発想に留まってるのはいかにも残念*1。「獏」や「夢札」とか(いかにもありきたりな)固有名称も却って上滑りしているような。「夢を見る」と簡単に言うけれど、我々は夢を「見」ているわけではなくて体験している訳なので、どうもその、技術面での貧困な設定が足を縛るような。文章で読むのと映像で見せられるのではまた違うかも知れませんが。映画「インセプション」はよい仕事をしていたと思います。


このひとの作品になると辛口な評価が出てくるのはそれだけ上手なひとだから、と思うことにしている。本当は連載じゃなくてじっくり腰を据えた書き下ろしが読みたいな。

*1:なんか「呪いのビデオテープ」みたいなんだよな(笑)