ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

パオロ・バチガルピ「シップブレイカー」

シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)

シップブレイカー (ハヤカワ文庫SF)

ううううううううううむ、あえて悪い意味で「普通」なお話でした。「ありがち」といってもいい。「ねじまき少女」や「第六ポンプ」で見せたようなグロテスクでディストピアな世界観こそあれ、作品全体を通じて存在するのはごく普通のジュブナイルヤングアダルト作品としてのお利口で善良な雰囲気で。もちろんそれも重要なんだろうけどなんかこー、なんだろうね。

船舶解体業者(シップブレイカー)としてスラムじみた社会の最底辺で生きる主人公とふって湧いたように現れる大企業令嬢のヒロインと追っ手と逃避行、骨組みだけ抜き出すとラピュタでありますとか、実にオーソドックスです。ちょっと毛色が変わっているのは最大の敵が主人公ネイラーの実の父親だってことで、「家族」がテーマなわりには唯一の肉親がとんでもない外道なオヤジだってあたりは宮崎アニメではなかなか有り得ないかも知れない。ヤク中でアル中でDVで殺人者な父親が最大の敵だってのはつまり話の黒幕が直接には登場してこないからであって、むしろ逃避行が始まる前のビーチの描写、ネイラーの生活ぶりにページが割かれているように見える。だから話が転がり出すまでは若干タルく感じるし、いざ転がりだしてからはやけに急展開があっさり続いて突然終わってしまう。「半人」のトゥールは実に魅力的なキャラクターなのに、その魅力を見せた途端物語から唐突に退場し二度と現れないのはちょっと残念。

寡作な著者が明確にYA層をターゲットに書いた作品なので、本当はハヤカワSF文庫のくくりで出さなかった方が良かったんでは…と、思わなくもない。「リヴァイアサン」三部作や「ボーンシェイカー」もそうなんだけど、早川書房は翻訳ジュブナイルのレーベルを立ち上げるべきじゃなかろうか。そこの枠組みで判断した方が良い評価・読者層を得られそうな作品が最近とみに増えてる気がします。