- 作者: 月村了衛
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: 単行本
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月村了衛といえばやっぱり「NOIRのひと」なので、「NOIR」が流行っていた頃身の周りの人間に「『NOIR』は面白いけど別に話は『ノワール』じゃないよね」ということを説明するのが難しかったのはよく憶えている。暗黒小説・悪漢モノとしての「ノワール」って、百合美少女ドンパチアニメに比べて全然一般的ではなかったし、「ピカレスク・ロマン」との違いも当時はうまく説明できなかったもので。ジャンルとしてのノワールとは「馳星周が書いてるようなスタイル」で、ピカレスク・ロマンとの違いは「ロマンがないこと」とでも言えば良かったんだろうけれど。それが今ならもっと簡単に説明できる。ノワール小説というのは月村了衛の「コルトM1851残月」みたいな作品です。
鉄砲モノ時代小説を期待して読んだらおどろくほど真っ当なノワールでちょっと驚かされる。解りやすく言えば幕末を舞台にした闇金で主人公の郎次はいわばインテリヤクザ系の人物。取り立てよりは面倒起こした相手をコルトM1851ネイビーモデルで密かに消して回る処理の巧さでのし上がったような設定。パーカッション式リボルバーがメインで出てくるフィクション作品も珍しくて、鉄砲モノとしてもお薦めですよ。御禁制の密輸品なので弾数に限りがあって無駄に使えない設定と、周囲の人間には手の内明かさず、なにか有力な組織集団と伝手があるように見せかける不安定な立場が面白かった。
シャロン・ストーン主演の映画「クイック&デッド」でひとりチョイ役が使ってたパーカッション式リボルバー、装填に手間がかかるのはフィクション作品では使い難い特徴で、それをタイムカウントしながらの「処刑」に転じさせたのはウマいな。そしてクライマックスのアクションシーンで至近距離で向き合ったままお互い全力で弾込めする場面には思わず笑ってしまうw
ヒロインとなるお蓮*1とふたり、寝床の布団で行燈に浮かぶ自分たちの影法師をあいてに銃の持ち方教えるピロートークな場面は秀逸で、いろんな物事の中核となるのはやはり銃か。「凶銃モノ」というジャンルがあるかどうかは知らないけれど。
時代物でノワールをやるのはかなりの冒険ではないかな、とそこはちょっと心配でもあり。時代小説の読者層がどこまでこの手の内容を好むのかは疑問があります。ノワール小説の読者層がどこまで時代物の設定を好むのかって疑問もありますけれど。「時代小説としては異色だが、ノワール小説としてはベタ」な作品と言えましょうかしら。
アニメの「NOIR」好きだった人ならニヤニヤするサービス(?)シーンもありでそこは楽しかった。ポップコーンでもいかが?
*1:調布の柴崎の猟師の家の出で山に獲物が無くなったから姉が人買いに売り飛ばされた過去がある。調布怖い。