- 作者: マイケルモーパーゴ,Michael Morpurgo,佐藤見果夢
- 出版社/メーカー: 評論社
- 発売日: 2007/08
- メディア: ハードカバー
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幸いにして自分は「自分の子供に戦争について教える」ということをせずに人生を全うできそうで、それはとても喜ばしい。しかし世の多くの親御さんが悩まれるであろう、戦争についてお子様に教える行為の、入り口にはこういうものが良いような気がします。イギリスという外国の作家が描いた、第一次世界大戦という遠い昔の戦争の、それでもそこには現代の我々とさほど変わらない人たちが、現代の我々とさほど変わらない暮らしをしていて、現代の我々とさほど変わらないように戦争の不条理に投げ込まれて悩み、苦しみ、理不尽さを訴える。
無論、現代の作家が現代の読者に向けて書いた作品ではあるのですが、戦争について何かを学ぶときに、あまり近しい物から入るよりは、まず遠くの方から見ていくと、それはそれで得られるものがあるのではないか…などと、読んでいてそんなことを考えました。
本書で著わされる「戦争の理不尽さ」は、塹壕と無人地帯の向こう側にいる「敵」ではなくて無能な上官や膠着した軍隊組織の「内側」にあるのだけれど、例えば戦争に限らず、平穏な日常である現代社会の我々の周囲にも、同様な事象はあるのでしょう。戦争というのは決してファンタジックな行為ではなく、いまとここにある日常の、延長線上にあるものでしょうから。
著者が、そして翻訳刊行した出版社が主な対象としている(であろう)読者層にとっては、トモとチャーリーの兄弟に起きた悲劇に大きく共感し、悲憤慷慨することでありましょう。ただ人間歳を取ると、死地と解っている所に部下を引き連れて行かねばならないハンリー軍曹や、即決裁判で銃殺を命じる必要がある軍隊そのものにも、それぞれ事情があるのだよなと、そう簡単に悪意をぶつけられなくなるのはまあ、仕方がないことです。
「連隊はソンムに向かう行軍に出発した」末尾のこの一節をどう受け止めるかは、それは多分に読者次第ということなんだろうな…
ちなみに映像化されてるようです。第一次大戦ものというのも、日本ではなかなか広まってくれないものですが。