ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ダレン・ナイシュ / ポール・バレット「恐竜の教科書」

 

恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎

恐竜の教科書: 最新研究で読み解く進化の謎

 

 恐竜研究についての世界の最先端の知見を、日本の恐竜研究の最前線に立つ研究者によって翻訳された恐竜の「教科書」。書影にも見えるように「恐竜好きのすべての人に!」と帯がありますが、いわゆる恐竜図鑑の類では無いし硬めの内容ではあります。フルカラーで図版も多く、決して読み難い本ではないけれど、やっぱりガチ勢向きですね。それはつまり小学生でもオッケイだ。ということでもある。

恐竜と鳥類の関係についてもずいぶんと研究は進んでいて、化石に残された様々な痕跡から非鳥類型恐竜にも鳥類と同様に気嚢が存在したこと、気嚢システムを用いた生態であったこと…というのが大変興味深い。竜脚類は泳げた(浅瀬を歩行できた)であろうという想像図は1970年代の児童書にも多く見られた「水場から首を突き出すブロントサウルス」のようで、最新の知見でありながら温故知新というか、懐かしさを感じるw むろん1970年代と違って竜脚類が「水棲である」とはもはや見做されないのだけれど、画として非常に見栄えがするなと思う訳です。

この前ホロタイプ標本を見て来たデイノニクス*1も、あの鉤爪は獲物を切り裂くためのものではないとあって驚く。ワシタカの猛禽類のように獲物を押さえつけるためのものとされていて「獲物たちの身体に容易に切り裂ける、あるいは、切り裂くことが可能な部分などほとんどない」と言われてグウの音も出ない。中生代というのはジュラシック・パークではないので、適度に食べやすい大きさのエサ動物がノソノソ歩き回ってはいないのだなぁ…*2しかしそうすると今後は、「獲物に飛び掛かるデイノニクス」みたいな展示は見られなくなるかもしれませんし、大型の獲物を群れで狩っていたというビジュアルにも修正が加わるのだろうか?スカヴェンジャー説とか、無いかな。

ビジュアル、ビジュアル大事だねー。それこそ1970年代の児童書には水場から首を突き出すブロントサウルスみたいな絵がよくあったけれども、当時からしてそんなのはアカデミズムの領域ではとっくの昔に否定されていたはずである(というかブロントサウルス自体が否定されていた時期だったはずだ)。それでも、「70年代っぽい恐竜観」を一般の領域で描き変えるビジュアルというのは、ジュラシック・パークが映画になるまで無かったんじゃないかな…。それこそ、デイノニクスでロバート・オストロムが提唱したような恐竜ルネッサンスの概念が広く一般に広まるにはずいぶんタイムラグがあったもので、その点現在ではこのように最新の知見に直ちに接することが出来る。まことに結構なことであります。

恐竜絶滅についての「隕石説」が急速に広まったのもあきらかにCGの発達によるビジュアル面での影響は大きくて、翻って現在ではいわば「CG映え」するような恐竜観が浸透してるような危惧はあるのだけれど、本書で恐竜の絶滅については(隕石だけでなく)白亜紀末期の気候変動が大きく影響しているという知見に再び接することが出来て、やっぱりなんだか温故知新な訳です。

思うに、斯界がこれまで積み上げて来た実績が決して「間違い」ではないこと。最先端の研究の背後では膨大なバックボーンがそれを支えているのだ…ということをあらためて認識させられたような一冊であり。

とはいえ2017年というから本当に最近に起きている恐竜分類の見直し、竜盤類と鳥盤類の分岐に対する疑問のような、あまりビジュアル面に訴求しない学説については、広く一般に広まるには時間がかかるのかなーと思ったりです。これもまだ定説と決まったものではないのでしょうが。

 

そんで本書内容の詳しいところについてはSAKさんのところもどうぞ~。

ま た 丸 投 げ か !

*1:http://abogard.hatenadiary.jp/entry/2019/08/24/201621

*2:「恐竜博2019」図録読み返したらデイノニクスの鉤爪の働きについての解説もはっきり記されていた。読解不足であった…