第8回ハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作。韓国人の青年男性を主人公に近未来の中国・成都を舞台に描くアクションという構成に、攻めてるなあと感じる。しかしそれを「攻めてる」と感じるのも、単に自分自身の狭量さを示すだけのものかも知れないね。フムン。そしてヒロインはインド人でその他の登場人物はほぼ中国人というキャラクター配置とはいえ、ではそれぞれのキャラに人種国籍の多様性が抽出されているかと言えば、正直全員日本人に見えるというのも率直なところで。こういうのって「重力への挑戦」のメスクリン人*1のメンタルが普通の人間にしか見えない問題の昔からずっと変わらんのだろうとは思いますが。あーでも物語の結末で玩具メーカーを興すというのは実に中国っぽかった。読解には個人差があります(笑)
はじめてサイバーパンクが世に出た時ってこんな感じだったのかなあとも。繁栄と猥雑と格差と権力が千々に乱れる未来の中国で都市を管理する人工知能と邂逅するのは、チバ・シティの安宿で目を覚ます「ニューロマンサー」の感覚に通じるエキゾシズムだろうか。動かないものを一切認識できなくなる奇病「ヴィンダウス症」の寛解を経て驚異的な身体能力を得るキム・テフンにはどこか「マトリクス」味もある。
が、
読んでいてどうもモヤモヤするものが確かに有り、上手いこと言語化出来ないなあなんてページを捲っていたら巻末の「第八回ハヤカワSFコンテスト選評」に全部書いてあって「あーそ-ゆーことね完全に理解した」になる。成程。(←わかってない)
あともうひとつ、冒頭で存在が示唆されるインドの寛解者マドゥ・ジャインが最後まで本編に絡んでこなかったのは、それは勿体ないな…。
著者十三不塔の作品は『2084年のSF』で「至聖所」を読んでいる*2けど、ハードな筆致とシティアドベンチャーという共通点を感じました。こちらは先日新聞広告の題材に使われてちょっと面白かった。
早川書房のSFアンソロジー『2084年のSF』所収の拙作「至聖所」が日本ガイシさん「いいミライを、つづろう」という企画として本日の日経新聞に紹介されています。作品に出てくる記憶を映像化する技術や素材を考案下さいました。美麗かつ幻想的なイラストはYOUCHANさんに手がけて頂きました。最高だ。 pic.twitter.com/1SLKI5vhi5
— 十三不塔 (@hridayam) 2022年10月18日