ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

クリス・ネヴィル「ベティアンよ帰れ」

ハヤカワ文庫SF通巻74という、まあ古典ですね。原著は1970年刊行で、ゼナ・ヘンダースンのピープルシリーズのような「素朴で清貧な古き良きアメリカの片田舎」SFがその年代でも成立したんだというのは、ちょっと驚き。とはいえあくまで刊行年であって、執筆時期や作中の年代設定はもっと前かも知れない。第二次世界大戦については言及されても、朝鮮半島ベトナムの話は出てこなかったな。

事故によって両親を失い、地球に取り残された異星人アミオ族の赤ん坊がごく普通の夫婦に養子として引き取られ、ベティアンと名付けられたその子はやがて美しく優しい娘に成長し、そしてある日本来彼女が属すべきのアミオ族の者たちが現われて…という、筋書きも何もすべてが古典的です。著者ネヴィルはいくつか著作はあるそうなのですが実質本作だけのひとで、そして日本でだけ「槍作りのラン」という作品が翻訳刊行されている。これは本作のあとがきや、あるいは「ハヤカワ文庫SF総解説2000」*1に詳しいんですが、ネヴィルの自宅を訪れた矢野徹が未発表原稿をみつけて翻訳刊行したそうで、まさに翻訳権独占(笑)

その「ハヤカワ文庫SF総解説2000」では本作について「もうひとつの『かぐや姫の物語』である」としている(秋山完による)。なるほどかぐや姫か、確かに。育ての親か生みの親かという二択を迫られる(実際には「生みの親」ではないのだが)というのもまあ、古典的ではあるけれど、かぐや姫は、少なくとも「竹取物語」では、悩まなかったんだよなとふと。

本書はハヤカワ文庫SFにカラー口絵とモノクロ挿絵があった時期の本なので、新井苑子によるイラストが随所に挿入されます。それもまた1972年という時代の(俺の生まれた年だよ、やれやれだな)素朴なタッチでこの素朴な物語に華を添えるのですが、クライマックスに見開きで描かれる一枚と本文の流れが、とても良い。それを記録しておきたくて感想付けたようなものです。

 

ああ、いまamazonのレビュー見たら元は短編なのか。確かに巻末にそのようなことも書いてあったな。なるほど中盤で話がダレるのは、それが理由か…。