ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

エレン・ダドロウ編「ラヴクラフトの怪物たち」上・下

 

ラヴクラフトの怪物たち 上

ラヴクラフトの怪物たち 上

  • 発売日: 2019/08/31
  • メディア: 単行本
 

 

 

ラヴクラフトの怪物たち 下

ラヴクラフトの怪物たち 下

  • 発売日: 2019/12/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 原著は2014年に刊行された最近の作家によるクトゥルフ神話作品集。本邦初訳というものも多いけれど以前学研が出してた「インスマウス年代記」に収録されていたものもあるそうで。「インスマウス年代記」は未読だったからまあ、ちょうどよい。

 

<上巻>

ニール・ゲイマンキム・ニューマンといった脂の乗った作家だけでなく、その昔モダンホラーがブームの頃に見た名前が散見されたので手に取ってみたのだけれど、むしろ初見の作家による作品の方が面白いような。そしてあまりクトゥルフらしくない作品の方が面白いような気がする…

上巻ではインドネシアを舞台にしたナディア・ブキン「赤い山羊、黒い山羊」、堕天使テーマのエリザベス・ベア*1「非弾性衝突」が面白かった。どちらもクトゥルフ神話というか普通に伝奇ホラーみたいな感じではあるのだけれど、クトゥルフ神話も最早伝奇というか古典の域には達しているのかも知れないね。

期待したキム・ニューマンの「三時十五分前」はあまりに短い掌編で、主に駄洒落というか韻を踏んだ(英語で韻を踏んだ)会話と歌詞の掛け合いを読ませるようなものだけにいささか難しいかもだ。ニール・ゲイマンの「世界が再び終わる日」も短めで、名の知れた作家の方がボリュームが少ないというのはいかにもアンソロジーっぽくはある(笑)

 

しかしこの上巻では<あの!>「暗黒神ダゴン」を書いたフレッド・チャペルが「残存者たち」というジュブナイル風味で(!)さわやかなハッピーエンドを迎える(!!)冒険SFをものしている(!!!!)あの、あの「暗黒神ダゴン」を書いたフレッド・チャペルが、だ!!!!!!!

 

あ、もしかして中身は別の生命とすり替わっているのかもしれない。精神寄生体こわい(´・ω・`)

 

クトゥルフ神話の怪物やテーマと「その他の何か」*2を噛み合わせたような話も多いので、巻末解説が「ゴジラVSクトゥルー!?」なんてタイトルになっちゃうのもわからんでもないけれど、しかしこの解説の内容はちょっと雑じゃあないかしら。誰が書いたかは、明記しませんけど(´・ω・`)

 

<下巻>

小粒な作品が多いなァ…などと思う中、スティーブ・ラスニック・テムとかカール・エドワルド・ワグナーと言った実に懐かしい名前があるのが嬉しい。前者は「深き霧の底より」、後者は「闇がつむぐあまたの影」をそれぞれ十代に読んでいる。どっちも創元で、それ以降は翻訳が無かった…

 

テムの「クロスロード・モーテルにて」は「ダンウィッチの怪」をオマージュしたような異種族婚で、いわばウィルバー・ウェイトリーの(ような立場の人物の)視点で語られる文章自体が狂気じみててよい。

ワグナーの「また語り合うために」はこっちに置いといて(オイ)、ジョー・R・ランズデールの––この人はよく名前を見るけど読むのは初めてかも知れない––「血の色の影」というのがとても良かった。「エーリッヒ・ツァンの音楽」にティンダロスの猟犬を混ぜたような、といってもエーリッヒ・ツァンでもティンダロスでもない、なんとまあロバート・ジョンソンネタだ。「俺と悪魔のブルーズ」ってありましたね…。こちらの作品にも「クロスロード・レコード」なる店舗が出てきて重大な要素となるのだけれど、そこであらためて先の「クロスロード・モーテル」というのも、そもそもがそういうことなんだなーと気づかされた。これはちょっと面白い読書体験。

 

下巻の解説は内容に即したものになっていると感じました。しかしいかにも箔づけに著名作家呼んで…というのはいかにもいかにもだ(何)

 

上下巻読み終えて、正直玉石混交だな…などと思っていたら一番最後に翻訳者植草昌実自身による「あとがき」があって、そこでちょっと軌道修正される。なるほどクトゥルフ神話ではないラヴクラフティアン・フィクション」ね。「らしくなさ」こそがむしろ「らしさ」であって…という。これむしろ巻頭にあったほうが良かったんじゃあるまいか。HPL本人の作品は今現在複数の版元から新訳が刊行されていて、そういう状況でちょっと毛色の変わった「ラヴクラフティアン・フィクション」の立ち位置というものを考える。真クリの後半作品が好きな人ならいろいろ楽しめるかもしれません。むしろがっちり入門しようと思う人には向かないかも知れませんが…

 

しかしこの内容で、いまどきはwikipediaあたりの記述が余程充実しているような、「怪物便覧」を載せる必要はあったのかしら???

 

そして思うに、真に「ラヴクラフトの怪物たち」というのは、彼ら作家のことであり、我ら読者のことなのだ。

*1:「スチーム・ガール」の人ですね https://abogard.hatenadiary.jp/entry/2017/12/03/201344

*2:狼男とか

ウィリアム・ホープ・ホジスン「エリ・エリ・サバタクニ」

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文学フリマで入手した私家版。「漂着文庫」レーベル第一回配本の田中重行氏によるホジスンの未訳作品短編集*1書誌情報などはこちらに。同梱されていたリーフレット(漂着文庫月報)によれば

正直言って「夜の声」レベルの海洋怪奇小説の傑作がまだ未訳で残っているわけではありません。

とあるけれど、デビュー作「死の女神」はじめ興味深い内容でした。海洋ものが多くを占めているけれど、なかには著者唯一の西部劇(!)「バークレイ判事の妻」や、未来のディストピア社会を描いた「1965年––現代の戦争」などのちょっと変わった作風の物もある。個人的には「呪われた<パンペロ号>」が非常に良かった。これはアサイラムに持って行けば立派なサメ映画になると思われる(笑)そんなオチで良いのか!などとツッコミ入れたくなるのも、考えてみればホジスンの作品には多いよな。

しかし一番インパクトがあったのは絶筆となる「戦場からの手紙」で、これは第一次世界大戦下のイープルより送られたものが抄録として当時のロンドンタイムズの死亡記事に載っていたもの。

 

おお、神よ!<ロスト・ワールド>とはこのことです––<世界の終わり>とはこのことです––。<ナイトランド>とはこのことなのです。––そのすべてがここに、あなたが座っているところから二百マイルほどしか離れていないが、しかし永遠に遠いこの場所に、存在しているのです

 

もし幻視者が、自分の見ている幻が実は幻でもなんでもないと気が付いた時に、そのとき抱いた感情、思考を作品として記述することが出来たら、いったいどんなものを書いたんだろうなあ。

 

もしペンがわたしを見捨てずに、かつてのような”才能”がまだ自分に残されているのなら、私はどのような本を書くべきなのでしょうか。

 

ペンは作家を見捨てなかったが、世界はもっと残酷だった。

*1:その他付録として明治時代に翻訳された作品やホジスン船員時代の評伝を収録。

米澤穂信「Iの悲劇」

 

Iの悲劇 (文春e-book)

Iの悲劇 (文春e-book)

 

 久しぶりに黒米澤。

 

Iターンをテーマに廃村をよみがえらせる計画が、幾度となく発生する隣人間のトラブルによって瓦解していく様を描く連作短編集。連載が半分、新規書き下ろしが半分といった内容で、連載分では昼行燈のような「甦り課」の課長が安楽椅子探偵のように謎を解くような構成をとる一方で、書き下ろし分では謎解きというのも弱いような(10m手前でばっちり真実に気づくような)ものもある。連載分でもあからさまに手掛かりが提示されているようなものもあり、そのあたりの薄っぺらさも米澤穂信らしい仕掛けで、エピローグまで読み進めると実は何が起きていたのか、そこで真実が明かされる構造。

 

しかし後味が悪いお話で、特に爽快感とかはない。困ったもんである(´・ω・`)

 

あー、最後の一行でこれがとある古典名作へのオマージュなのかと思わされる驚きはあるが。

 

あるがしかし。

プラッツ「ガールズ&パンツァー 劇場版 おてごろ模型戦車道 1/56 IS-2 プラウダ高校」を作ってみる(塗装編)

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で、続きです。前回はこっち。

およそ模型で塗装といえば世間様ではエアブラシか筆塗りか、みたいな話になるのですが、世間から遠く離れたところで缶スプレーを振ってるこの身の好み、模型雑誌なんかでももう少し缶スプレー塗装法の解説とかやってくれないものかしら。

 

モデルアートで最近やってたそうですが

 

それは読み忘れたの(´・ω・`)

 

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川村拓「事情を知らない転校生がグイグイくる。」⑦

 

 というわけで「事情を知ってる同級生がグイグイくる。」も7巻目です。今回の山場はバレンタインとか6年生を送る回とかで、そこで描かれるのは笠原さんの在り様だったりする。「倫理ケア」という言葉は最近知ったのだけれど、高田君の言動は周囲の人間を倫理的にケアしているのかも知れません。いわゆる癒し系よりもうちょっと踏み込んだセラピーか。

そういう話が受ける時代なんだろうなとは思います。それが良いか悪いかはともかくとして。

 

次巻は6年生に進級して、どうも新しいキャラとか出るらしい。事情を知らない者はさて誰なのかしら。

「魔女見習いをさがして」見てきました

公式。 おジャ魔女どれみ20周年記念作品というわけで、20年というのもあっという間ですね。当時はまだ20代で、アーマーモデリングも隔月刊でした(関係ない)。

 

特にネタバレがどうこうというタイプの映画ではないと思うのですが、念のため続きは隠しておきます。

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プラッツ「ガールズ&パンツァー 劇場版 おてごろ模型戦車道 1/56 IS-2 プラウダ高校」を作ってみる(組立編)

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ちょっと思うところあってキットレビュー的な記事を書いてみようと思います。最近あんまり読書もしてないしねー。

 

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