ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

チャイナ・ミエヴィル「オクトーバー 物語ロシア革命」

 

オクトーバー : 物語ロシア革命 (単行本)

オクトーバー : 物語ロシア革命 (単行本)

 

 チャイナ・ミエヴィルの作風というのはいわく捉え難いものがあるのだけれど、ここまでストレートな「歴史小説」を書くとは思わなかったので、それにはかなり驚いた。「小説」とはいえ記述はあくまで、フラットでノンフィクションと呼んでも差し支えはないのかもしれない。

ボルシェヴィキによる革命の起きた1917年のロシア、ペテルブルグを中心にした混迷と動乱を一章1か月単位で描いて、クライマックスは10月革命なのだけれど、しかし「ロシア革命」に向けられる様々なまなざしはその後の出来事、本書ではエピローグにまとめられた時期の出来事に焦点があてられるわけで、このパートでは著者の「主観」が全面に出てきている。

内容の是非を問うことは自分の手には余りますので触れませんが、20世紀に起きた大きな出来事、その後全世界に大きな影響を与えた出来事を知ることには非常に価値があると思いますので、こと共産趣味者に限らずに、広く様々な範囲の読者に読まれることを願います。

権力と暴力は、ノリだな。

アーシュラ・K・ル・グウィン「風の十二方位」

 

風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF 399)

風の十二方位 (ハヤカワ文庫 SF 399)

 

 ※自分が読んだのは旧版

 

これは読みやすかった。全図が全部ではないが概ね素直に楽しめた、共感しやすいというか「寓話」的な要素を楽しんだような感覚。考えてみればゲド戦記も「こわれた腕環」が一番好きで、あれは分かりやすい寓話だったからなあ…。そのゲド戦記アースシーを舞台にした作品のひとつ「名前の掟」は珍しく(?)コミカルというかブラック・ユーモアなオチが楽しい、不思議。「四月は巴里」の軽妙さもこれまで読んできた(いやそんなに読んでないけどね)長編とはなにか違う雰囲気で、それでも「マスターズ」や「九つのいのち」には長編と通じ合うテーマ性があったりといろんな作風が楽しめます。

 

それでやっぱり「オメラスから歩み去る人々」がね、これを初めて読んだのは実は結構最近のことなんだけど、10代の頃に読んでおけばよかったと思うと同時に、10代でこれ読んだら拗らせそうだな、とも思うわけです(笑)

 

 

ジーン・ウルフ「書架の探偵」

 

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

もしも不老不死の技術が実用化されたらジーン・ウルフにそれを施すのは人類世界の義務ではなかろうか。御年84歳でまだこんな意欲的な作品を書けるもので、敢えて名前は上げないが没原稿蔵出しみたいな連中とは全然違うぞ。

人類が大幅に数を減らした未来世界の地球で、図書館の書架には本の代わりに作家自身の複製体(リクローン)が納められている、というのが設定の中核です。貸し出し数が少ないと容赦なく焼却処分される無慈悲な世の中で、推理作家E・A・スミス(の複製体)は自らを借り出した女性コレットから生前の自分が書き著した本(本物の書物)に隠された秘密を解き、コレットの父と兄の死亡にまつわる謎を解明してほしいと頼まれ…

なにが驚いたってすごくまっとうにミステリー、探偵小説だったことです。ジーン・ウルフと言ったら「新しい太陽の書」シリーズ(新しい太陽の書 の検索結果 - ひとやすみ読書日記(第二版))をはじめ一筋縄では行かないような作品を様々なテーマで書いているけれど、未来社会で特異な設定とはいえ、こうも直球を投げてくるとは思わなかった。扉を開けると異世界に通じる部屋とか出てくるけど。それとすごく読み易いし、キャラクターにもたいへん感情移入がしやすい。それは本当、ベテランのワザマエです。語り口の妙手もまた良しで、どこまでこの語り手に信頼を置けるのか、そういう部分も面白かった。ものすごくシニカルなユーモアのセンスは相変わらずでお話の悪役たるヴァン・ペトンの末期は声を出して笑った。いやシニカルなユーモアに声を出して笑うヤツのセンスはどうなんだってことはさておき。

続編も構想されているようで全世界の人体生理学者は全力を挙げて不老不死の技術を実用化し、ジーン・ウルフから無限に作品が湧き出るようにしてほしい。

 

カート・ヴォネガット「人みな眠りて」

 

人みな眠りて

人みな眠りて

 

 

カート・ヴォネガットの初期未発表短編集として「はい、チーズ」(http://abogard.hatenadiary.jp/entry/20140821/p1)につづくもの。こちらは「普通小説」を中心に集めたもので、なんていうかのその

 

普通だ。

 

普通に「気の抜けたO・ヘンリ」みたいな作品が続くのでちょっとツラいところも、無きにしも非ず。本文よりはむしろデイヴ・エガーズ(誰?)による解説の方が面白かったりするのだけれど、それでもこれら若き日の習作群の中に、後年の作品が持つ輝きの片鱗は確かにみられる。そういう気分も味わえる。

収録作の中では「ペテン師たち」が良かった。才能と才能の欠如、魂と魂の欠如、それを埋めるなにかは、じゃあどこにあったのか…というようなおはなし。

ユッシ・エーズラ・オールスン「特捜部Q―自撮りする女たち―」

 

特捜部Q―自撮りする女たち― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

特捜部Q―自撮りする女たち― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 

 

シリーズ第7作。前に全10作の構想だと聞いていたのでそろそろ終盤に差し掛かるのかな?例によって過去の未解決事件が現在の新たな事件と交錯する内容なんだけれど、現在に起こる社会福祉事務所のソーシャルワーカー生活保護受給者たちとの間で起こる「殺し合い」が雑なうえに杜撰な犯罪で、むしろその杜撰さ、雑さが却って実感を沸かせるような展開でした。天才的な犯罪計画とか、大きな謎による迷宮入り事件とかじゃないのよ。

過去の事件が未解決のままだったのも単にデンマーク警察の捜査が杜撰だったからで(これもまあ、本シリーズによくあることだね)、社会風刺的な意味合いはやっぱりあるんでしょうね。

それで今回もうひとつの大きな流れは特捜部Qのメンバーであるエキセントリックかわいいローセが、エキセントリックを大幅に飛び越えてスーサイダルなところに行っちまうこと、本シリーズの大きなテーマ「過去の未解決事件」が、実はローセの過去に起きた事故と犯罪に関するものがメインだった…というところです。これまでずっとただのヘタレぽかったゴードン君がんばる。もっとがんばれゴードン君。

社会風刺と同時に「女性キャラクターが酷い目に合う」のもやっぱりシリーズ共通で、ここがダメな人もいるかも知れませんね。それはそうと「自撮りする女たち」というタイトルは、たしかにスマートフォンで自撮りするシーンもあるけれど、むしろ原題の「セルフィ―」は「自分自身」というような意味で…などとあとがきにあります。ええ、それはよく解ります。

 

それでもカールの分かれた妻の母であるところのカーラがスマートフォンを用いて自撮りを試みようとするシーンの凄まじさは強烈である、相変わらずではあるけれど、いやはやとんでもないキャラクターだ…

クリストファー・プリースト「隣接界」

 

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

隣接界 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

 

ストーリーはsakさんとこにあるので丸投げる(ヒドイ

クリストファー・プリースト『隣接界』 - logical cypher scape

 

隣接するもの、隣にある世界。グレート・ブリテンイスラム共和国を振り出しに、複合する様々な世界を行き交って、お互いに死別した男女がもう一度出会うまでのお話。パラレルワールドではあるけれどパラレル(平行)というわけでもないのは現実の(我々の世界の)第一次世界大戦や第二次大戦といった時間軸を越えて動いたり、あるいは夢幻諸島(アーキペラゴ)というプリーストの他の作品(いや、他作品というわけではないのだけれど)に話が飛んだりする。その夢幻諸島を舞台にした第七部「プラチョウス」では文体も「夢幻諸島から」のようなスタイルになっていて、ここだけ抽出して単独の作品になりそうではあります。

http://abogard.hatenadiary.jp/entry/20131102/p1

 

パラレルワールドといえば「オーガス」な世代なんだけど、オーガスで平行世界をモザイク状に結合させたのが「時空振動弾」であったように、この作品でも「隣接性兵器」がお話のキーになっているのは面白かった。気に入らない相手をパラレルワールドに放り投げても問題は解決しないということだな(なのか)

ここではないところ、いまではないいつか、そういうものに対する感情を励起させるのがパラレルワールドSFのよいところで、でも「世界には今とここしかないのよ」と、シズノ先輩にはばっさり切られそうな気がします(ゼーガペインか)

しかしまあ、そりゃ人間スピットファイアで単独飛行せよと言われたら、そらアサッテの方向に飛び去りたくもなりますわな。ランカスターじゃこうはいかねえ(何)

「パシフィック・リム:アップライジング」見てきました(二度目)

4DX3D吹き替えで。5年前に前作公開したときはまだ名古屋に1つあるだけだったよねー。世の中ずいぶん変わったよな。

4DX見るのはガルパン劇場版以来でしたが、まーどっかんどっかんよく揺れて楽しめましたw

初見と比べて新発見みたいなことは特にないんだけれど、名も無きタイタン・リディーマーのパイロットの勇戦には深く称賛を贈る次第で、片腕だけでも東京まで持ってくるわけだよなァ…とは思った。