新潮文庫の海外ミステリー読むのもなんか久しぶり。昔からジャン・リュック・ゴダールの映画のタイトルだけ知ってて見たことないんだけれど、原作小説があるとは知らなかった。本書解説によると原著はかなりの「まぼろしの一冊」で、別の作者による「気ちがいピエロ」というのもあったりでややこしい状態ではあったらしい。別にキチガイのピエロが出てくるような話ではなく、原題を ”Obesession(執着)” というノワールもの、ロードムービー要素もある典型的な「ファム・ファタール小説」でした。なおゴダールの映画は舞台を原作のアメリカから地中海に移したりで、話は全然違うっぽい。中年男がひとりの女性に引っ張り回されて破滅していく様は同様ではあるのだが。
中年男が十代少女を引っ張り回して破滅するなら「ゴッド・ブレス・アメリカ」という映画があったねそういえば*1あれとは全然違うけれど、ああいうものの系譜に連なるかなり古典的作品なんだろうなあ。男女間にセックスの快楽はあっても愛情は少しもない。それでも、いくら裏切られても執拗に追いかける、これはそんな執着の話で、ヒロインのアリーの造詣のヤバさと時おり彼女の口から語られるバックボーンがひとつも信用出来ないところは「ダークナイト」のジョーカーを彷彿とさせる*2。
意外な掘り出し物で、巻末に翻訳者のあとがきと映画評論家の解説と更にもうひとつ解説があって妙に豪勢だなこれ。