ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

サラ・ピンスカー「新しい時代への歌」

これは面白い!読み応えある内容だった。ロックミュージックを主題に据えているのでそっち方面かなり疎いのだけれど、ロックの持つ精神性や反権力・自由意識というのは伝わった気がします。以前「いずれすべては海の中に」を読んでて、そっちにも本書の主人公(のひとり)ルースを主人公に据えた短編「オープン・ロードの聖母様」が載ってたのだけれど、その時は正直あんまりピンとこなかったのね。いちおうリンク貼っておきますが言及すらしていない(´・ω・`)

abogard.hatenadiary.jp

それで本書は疫病とテロリズムで人々の集会(スポーツ観戦やライブコンサートも含まれる)を禁止した近未来のアメリカを舞台に、ロックミュージシャン、シンガーソングライターでありバンドボーカル及びギタリストであるルースと、超巨大企業ステージ・ホロ・ライブの新人社員ローズマリーの2人を主人公に、2人の視点を交錯させながら物語を紡いでいく。個人対巨大レーベルというのは音楽コンテンツではありがちなてーまではあるけれど、バーチャル配信企業vs生ライブバンドという対決構図は今風だし、何より人々に集会を禁じる法律が謎のパンデミックテロリズムの蔓延によって施行されているという舞台設定が実にイマドキ、コロナ禍ならではの…と思ったら、本書が執筆されたのはコロナ前なのね。なんとも啓示的なことで驚きですが「ポストコロナの一冊」としても読めるでしょう。やはり超巨大企業の平凡なオペレーターを辞して音楽の世界に飛び込んだローズマリーが直面する現実の苦さ。歌う場所、歌う仲間を次々に奪われていくルースの無念さ、様々な葛藤が結ばれていくのがクライマックスのライブになる展開。そしてこれはたぶん大事なことなんだけど、歌詞や「楽曲そのもの」を直接書き出してはいないのね。すべては小説として、世界の描写とキャラクターの心情・発言で綴られる。そこがいいなと思いました。なかなか筆致のいることです。