ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

「若おかみは小学生!」見て来ました。

公式。

 

原作は前々から気になっていました。でもおじさんが読むものでもないだろうなと手を出しませんでした。

結構巻数が多くて人気あるんだなーと思っていました。でもおじさんが読むものでもないだろうなと手を出しませんでした。

TVアニメ化されてほうすごいねえと感心しました。でもおじさんが見るものでもないだろうなと手を出しませんでした。

映画化されて

おいオッサンしかみてねーじゃねーかおい。

 

というツイッター真実に打ちのめされてあわてて見に行きました。

 

( ;∀;) イイハナシダナー

 

いや、別に観客はおっさんばっかでなくカポーや家族連れも沢山いてたいへん賑やかでありました…

 

うーん、まあなんだろう、「グランドホテルもの」というジャンルというか枠組みだよな。旅館(ホテル)で幽霊と言えば「シャイニング」だが「きれいなシャイニング」かといえばそんなことは全然なくてだな。存外、お子さんは泣かないかもしれない。ああいうお話を見て滂沱するのは疲れた大人のような気がする。誰だってグローリー・水領様のようになりたい。俺だってなりたい。しかし現実には子供から見てあんな格好いい大人、子供の悩みに正面から向き合える大人、子供の成長を優しく後押しできる大人になんて、成れる人間の方が少ないからさ…

専門の声優だけでなく一般俳優も多いキャスト陣にあまり違和感がなかったのは、特に大人の(グローリー様以外の)キャラクターがフラットな演技をしていたからだろうか?対して子供の(おっこと同じ年頃の)キャラクターは如何にもアニメな演技、キャラクター性を演出していて、特にピンふりこと秋野真月を水樹奈々様が演じていたのはかなり強力だった。とはいえ「水樹奈々っぽく」は無かったんだよな。お婆ちゃんの幼少期は花澤香菜さんが演っていたけど(考えてみれば贅沢な使いどころだ)、それもあまり「花澤香菜っぽく」は無かった。

その上で最後に春の屋を訪れる木瀬様ご一行の、山寺宏一がものすごく「山寺宏一っぽい」美味い味わいの演技をしていて流石の技前でした。見ている観客をちょっとイラっとさせて、でも決して悪い人物ではなくて、むしろすべての登場人物の中でもっとも重い、大きな傷を背負っていて、と……

 

まあ泣きますわなそら泣きますよいろいろな。ネットでは作画の美麗さやストーリーのテーマに主軸を置いた感想をよく見たので、ここではキャスト陣の演技中心に振ってみた。小桜エツ子強い。

 

それで結局、1万2千年ぶりに児童小説を買ってしまった。映画見てノベライズを買うというのも14万8千光年ぶりだ…(光年は距離の単位だ、バカめ)

 

 

若おかみは小学生!  映画ノベライズ (講談社青い鳥文庫)

若おかみは小学生! 映画ノベライズ (講談社青い鳥文庫)

 

 

 

ぬまがさワタリ「絶滅どうぶつ図鑑」

 

絶滅どうぶつ図鑑 拝啓 人類さま ぼくたちぜつめつしました

絶滅どうぶつ図鑑 拝啓 人類さま ぼくたちぜつめつしました

 

 ツイッターで話題のイラストレーターぬまがささんによる、ちょっとユルめの動物図鑑。これまでいくつか出ていたけれど、今回は新生代第三期・第四期に生息していた古生物中心の内容だったので手に取ってみた。

「ウワーッ!」の名台詞に代表されるようにユーモラス且つブラックなテイストも含むスタイルで、全77種の生物が解説される。個人的にはガストルニスとフォルスラコスの恐鳥類2種が掲載されていてうれしい。古生物の黒い本にもあった(http://abogard.hatenadiary.jp/entry/2017/01/29/124733)ように、この時期の絶滅要因のひとつ、大きなひとつは「人類との接触」で、それは現生の絶滅動物や危惧種にも大きな影を落としている。そういうことをソフトに考えさせるためには、骨格標本ばかりではなく本書のようなコミカル化、キャラクター化という手法は有力なのでしょうね。ディフォルメを行ったうえでなお本質は外さずに魅力を伝える。ぬまがささんがやってることは戦車の世界でモリナガ・ヨウ先生がやっていることとたぶん、よく似ている。

10月21日までは吉祥寺のPARCOで個展も開催されているのでご興味のある方はぜひ。肉筆画もあります。絶滅どうぶつケーキというのもあってちょっとしたJ.G.バラード気分だ(http://abogard.hatenadiary.jp/entry/20091012/1255356490

アーサー・C・クラーク「海底牧場」

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

クラークあんまり読んでないなーと思って手に取る…が、実は昔読んでいる。岩崎書店ジュブナイル版「海底パトロール」を小学生の頃にねー。そのときは話の途中で主人公が突然事故死してしまって、それまで脇だと思っていたキャラが主役に繰り上がるような展開に随分驚いたのだけれど、オリジナルを読んでみたらドン・バーリーは第1章の視点人物なだけで別に主役でもなんでもなく、その死に至っては「帰ってきたら結婚するんだ→死」という、おそろしく雑な死亡フラグ立てに笑わされてしまう。「海底パトロール」を訳したのは福島正実だそうだけれど、かなり翻案してたんだろうなあ。

本筋は元宇宙飛行士で宇宙船の事故によるトラウマを抱えて世界連邦食糧庁の牧鯨局に転職したウォルター・フランクリンが、トラウマを克服し正規の監視員となり、経歴を重ねてやがて官僚機構に従事しある大きな決断をする…というようなもの。原題「THE DEEP RANGE」よりも邦題の方がずっと直接的で、要するに海で鯨を養殖(放牧)してカウボーイならぬホエールボーイがそれを管理する社会を描く、よく「クラークは未来を予見していた」なんて言われる際にはあんまり引き合いに出されない作品。

なんだろうなー、3部構成の第1部「練習生時代」と第2部「監視員時代」は、どちらかというと古き良き(なにしろ半世紀以上前のSF小説です)海洋冒険SFみたいで、謎の巨大深海生物を追い求めるような流れなのだけれど、第3部「官僚時代」で突然セイロン島の仏教原理主義者が出て来て鯨食に反対する社会SFになる、というのはどうにも乱暴な気がしなくもない…。キリスト教イスラム教も他の何もかもが捨て去られた「世界連邦」で、なんで仏教が大きな地位を占める設定にしたんだろうと思ったら原著が刊行された1957年ってクラークがスリランカに移住した時期なのね。

 

なるほど。

 

クライマックスも唐突に起きる海難事故と英雄的な救出活動でどうにも展開が雑…なんだけれど、「海洋SF」のイメージを作り上げた、これは記念碑的な作品ではあるのでしょう。それと、クラーク作品にしては珍しく(?)ヒロインのインドラ・フランクリン(旧姓ランゲンバーグ)女史、ウォルターの妻にして二児の母であり生物学者でもある褐色美人キャラさんが実に実に魅力的です。

 

きっとメガネだな。メガネに相違あるまい。

 

 

 

 

ジョナサン・オージエ「夜の庭師」

 

夜の庭師 (創元推理文庫)

夜の庭師 (創元推理文庫)

 

 とてもよいジュヴナイル・ホラーだった。ホラーというよりダークファンタジーよりかな?19世紀イギリスの田舎を舞台に、聡明で語りの才がある姉と脚が悪く誠実な弟の、親の無い姉弟アイルランドの飢饉を逃れてイングランドに逃れて来たきょうだい)が、奉公先の屋敷で出会う謎めいた家族と怪異、屋敷にまつわる秘密と亡霊めいた「夜の庭師」。

まずビジュアルが良い。巨大な老樹と一体化した薄暗い屋敷、夜な夜な現れる影のような存在、薄幸そうな家族とかいろいろ。秘密の扉を開くとそこには樹の洞が口を開けていて、望みのものが手に入る。手に入る代わりに人は何かを、すなわち魂を少しずつ失っていくのだけれど、手に入る望みは麻薬のようにひとのこころをむしばみ……というような展開です。モリーとキップの姉弟がどれほどの苦難に遭い悩み苦しんでも誠実さを失わず、傷ついたウインザー家の家族を助け、最後はみなで力を合わせてハッピーエンドという、極めて良い話だった。ディズニー映画化決定とあるけれど、実際に映画にはなったのかな?(※どうもまだなって無さそう)

まあ何が良いってお屋敷の兄妹、デブでそばかすで嫌味ったらしく他人を害して回るばかりだった兄のアリステアがキップの手助けを買って出るシーン…

 

でもなんでもなく。

 

妹のペネロープが素敵純真ダーク風眼鏡っ子だった!ことで!!あります!!!ビジュアルが良い!!!!

 

「語り」と「騙り」のテーマはかなり重要で、村の語り部ヘスター・ケトルのキャラがかなり良いのだけれど、それについてはここでは触れずに読んだ人のお楽しみということでひとつ。

 

あと「夜の庭師」が老樹の根の生えている範囲でしか活動できないところがいかにも「オージェ」で面白いよなー。なんて、そんなのエルガイム好きにしか通じねー冗談だわw

上遠野浩平「彼方に竜がいるならば」

 「アウトランドスの戀」が収録されている、「戦車のような彼女たち」(http://abogard.hatenadiary.jp/entry/20120807/p1)とは対になる短編集。なかなか出ないナーと思ってるうちにすっかり忘れていたけれど、2年前に出てたのねアンテナ弱すぎだね俺。

 

とはいえ判型も装丁も「戦車のような彼女たち」とは全然違ってて、戦地調停士のシリーズ(事件シリーズ、と言った方が自然なのだが)になってるようです(kindle版は明確にサブタイトルが付いている)。がーしかし、舞台は異世界ではなく現代社会で、むしろ単行本化にあたって各作品間をつなぐブリッジを追加したことによって、直球でブギーポップになってる。裏表紙にはイラストもある。オマケにちょうひさしぶりに木村明雄君が出てきたのでいささか感動してしまった…

 

大体の内容は事件シリーズで起きた事件の欠片がソーコクカドーレーシンゲンリだかなんだかでこっちの世界に表れて、それらによっていろんな人の人生が曲がったり響いたりリセットちゃんがコキ使われたりとかそんな感じです、事件シリーズは一番最初の「殺竜事件」しか読んでないんだけれど、読んでなくともだいたい楽しめました。

 

そしてやはりポルシェ式幼な妻と天罰夫くんの新婚家庭は良いなあとほっこりするわけである。

ルーシャス・シェパード「竜のグリオールに絵を描いた男」

 

竜のグリオールに絵を描いた男 (竹書房文庫)

竜のグリオールに絵を描いた男 (竹書房文庫)

 

 

いやー、久しぶりに骨太なファンタジー小説を読んだ気分。面白かった。全長6千フィート、高さ750フィートというとあんまりピンと来ないけど、悪のヤードポンド法を正しいメートル法に換算すると全長は約1.8km、高さは約228m。山のようなサイズのドラゴンに絵を描いて毒殺する男の話。という表題作は短編で、その巨大な竜グリオールの周辺に生きる様々な人々を描いた連作短編集です。本書には4本収録されていて、うち2本はボリュームのあるノヴェラ(中編)。

 

何を書いているのか、というのはなかなか説明しづらいもので、山のような巨体の竜グリオールは太古の魔法の効果で動くことは出来ず、そこには樹木が生え生命が育ち、人の住む町が出来てもいる。その竜の周辺に在る、絵描きであったり弁護士であったり、竜の体内に軟禁されたの女性であったり竜と婚姻して子作りさせられる男性であったりする様々な人物の

 人 生 

を、描いているような、そういう種類のファンタジー小説です。

数十年をかけて竜の広大な体表をキャンバスとし、そこを切り開き毒性を持った絵の具を用いて巨大な絵画を描き続ける作業は、巨大な土木工事というか環境破壊のようでもあり、1980年代に生まれた作品だなあと感嘆される。人々が決して善人としては描かれないように、麻痺し続ける巨竜グリオールも善なるものではなく、むしろその精神の力は邪悪で、広範囲かつ長期間にわたって人間の行動を支配しコントロールする。竜の間近で暮らす人々の、どこまでが自分の意思でどこからが竜による支配なのかは誰にもわからない。

巻末には著者自身による「作品に関する覚え書き」があり、更におおしまゆたかによる解説もなかなか読ませる内容です。後者を読むとなるほど著者の言ってることを額面通り真に受けることはちょっと危険かもしれない(笑)語り手は騙り手であり、むしろ騙りであるからこそ語りは面白いのだな。そういう感想を受けました。

内容としてはボリュームも備えた2本、「鱗狩人の美しい娘」や「始祖の石」に読み応えがあり、テーマの不条理さ、考えさせられるところでは「嘘つきの館」が優れているのだけれど、やっぱり絵的な想像が広がる表題作が一番良いかな。映像で見たいような気がしますが、イマドキならゲームなのかしら。

 

しかしヒューゴー・ネビュラ・ローカス賞はじめ様々なアワードを受賞した珠玉の名品揃い、本邦初訳の1本以外はすべて早川書房SFマガジンが初出のこの本が、なんでハヤカワからは出なかったんだろう?竹書房文庫は近年良い海外SFを出してくれているけれど、最近あんまりハヤカワのSF新刊読んでないよなーうーむ