ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア「故郷から10000光年」

 

むかし何かのアンソロジーで読んで、読み返したくてもタイトルも著者も失念していた作品が本書に収録されている「故郷へ歩いた男」だと知って読む。この人の本も10代のころからいくつか読んでたけれど、本書は多分未読だったと思う。本国では一番最初に編まれた短編集だそうで、結構ドタバタというかガチャガチャした話が多い。読み返してみた「故郷へ歩いた男」も、やっぱりなんか、うーん、変な話ではある。たしかタイムトラベル物のアンソロで読んだのだったかな。梶尾真治の「美亜に贈る真珠」にちょっと似ているというかどっちが先だとかそういう話はまあいいか。どうもいまひとつ乗れなかったんだけど(さすがに古さを感じさせる話が多い)、「ビームしておくれ、ふるさとへ」は後々のいくつもの作品に、特に「たおやかな狂える手に」*1に通じるような情感があるなあと。

 

ティプトリーと言えばジェンダーの人というか、自分は「ジェンダー」という概念をティプトリーの文脈で知ったものなので、どうしてもそういう視線で見てしまうのは否めない。そしてアリス・シェルドンが書いたものだとあらかじめ判っているものだから、どうしても女性的(な作品)に見えてしまう。そういうものだな…

 

その意味では本書でいちばん面白いのは、ハリイ・ハリスンによる前書きかも知れない(笑)

 

*1:「星ぼしの荒野から」https://www.amazon.co.jp/dp/4150112673/に収録

「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン」見てきました。

公式。去年何も知らずに外伝を見て*1、その後TVシリーズを履修して*2、悲劇的な事件や幾度の公開延期を経て漸くに。劇場ではパンフレットが品切れでしたが、幸いこちらのサイトで正規に購入できました。

 

発送は9/23以降だそうですが、こういうのが増えると良いですね。もしもこの記事をお読みの方で、やはり映画を見たけれどパンフが入手できなかった方がおられましたら、くれぐれもメルカリその他の転売サイトではお買い上げならないよう願います。

 

さて以下はネタバレ全開なので隠しますが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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佐藤たまき「フタバスズキリュウ もうひとつの物語」

フタバスズキリュウ もうひとつの物語

フタバスズキリュウ もうひとつの物語

  • 作者:佐藤 たまき
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

フタバスズキリュウ発見50周年を記念して2018年に刊行された一冊。著者佐藤たまき氏は日本の首長竜研究の第一人者と目される、フタバスズキリュウことフタバサウルス・スズキィの論文記載を行った方なのですが、個人的には「むかわ竜」を鑑定して「これは首長竜ではなく恐竜の化石だ」と特定した(そしてそれを聞いた穂別博物館の櫻井和彦館長が小さくガッツポーズした)人だという認識でおります。その時の話は特に出てこないのですが、そういう人と人とのつながりを感じさせるような本でした。

内容はほぼ佐藤さんの自伝というか生い立ちというか、たぶんいちばん近いのは日経新聞の「私の履歴書」ですかね。そういう研究者個人の話であって、フタバスズキリュウ研究の話はあってもフタバスズキリュウの話、生態とか当時の白亜紀の情景とかそういうのは無いのでいちおう念のため。

ひとりの恐竜好きの女の子が、長じるにつれてもその夢を捨てずに研究者の道を選び、いかにして「フタバスズキリュウ」に国際的な学名を記載するまでに至ったか。大体そんな感じなんですが、国内外のポスドクを転々と渡り行く就職活動の話ばっかりだという感もある(笑)それだけ大変な世界で、大変な世界を渡っていくにはやっぱり人と人とのつながりが大事なんですね。縁もゆかりも大切です。若い方はそういうものを「コネ」と呼んで嫌う向きがあるかも知れませんけれど、人のあいだに脈をつなげていかないと社会性は育たないものですし。

そういう、いわば横のつながり(無論上下はあるが)の他にも、先行研究者たちによる時代を超えた「縦のつながり」みたいなものも読みとれて、恐竜の主体は恐竜だけれど、恐竜研究の主体は人間なのですと、そういう本ですね。首長竜は恐竜じゃありませんけれど。

 

しかしこの方同い年なのですね、それは存じ上げなかった。

 

「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」見てきました

公式。といっても映画の公式サイトというのは無いのね。完全新作ではない総集編+新作カットが「完全版」ならばTVシリーズは不完全なのかという難癖wはともかく、面白い映画でありました。大画面と迫力の7.1ch音声で大空を自由に飛び交うヒコーキ映画、なかなか昨今のアニメーションでもここまで作り込んだ飛行機物は無いでしょうと*1

TVシリーズにあったエピソードはいくつかは大胆にカットされているのだけれど、TVシリーズの前半部分にあった謎の陰謀が段々と進められて誰がその黒幕なのかという、謎解きやミスリードの要素も切り捨てて、ストーリー自体は分かりやすいし空戦はじめ飛行機のアクションは成分多めで、TVシリーズ履修済みの方は最初からMX4Dで見ちゃってもよいかなと思います。逆に未見の方は途中から唐突に出てくるキャラが多くて戸惑うかも知れません。キリエとナオミの因縁とサブジーを巡る2人の関係が全部出なかったのはちょっとビックリしたんだけれど、あの部分はストーリーには全然関係なかったしなあ…サブジーとキリエの(特に思想性に於いての)師弟関係はきっちりやっています。大空はアナーキーだ!(そうなのか)

新作部分は主に2つで、ひとつはコトブキ飛行隊結成当時のエピソード。6人のそれまでの前歴を見せるのですが、エンマの旧友としてTVに1カット出ていたタミルが拾われていたり、チカが実は空賊出身だったりとなかなか面白いところです。ザラさんいい女過ぎです。もうひとつは最終決戦前夜の羽衣丸一同の思いというか行動というかそういうところで、ガルパンの黒森峰前夜を思い出すような作りだ。その場面ではTVシリーズの際に完全に死に設定だった「キリエとエンマは幼なじみ」というのをこれまたちゃんと拾っていて、丁寧なつくりはしているのだよな。チカのベッドの横にあった落書き、サネアツ副船長のベッドの上に貼ってあった写真(ポスター?)、パーソナルスペースにあるパーソナリティが、キャラの魅力を増やしているのだなあ…。そしてやっぱりザラさんいい女過ぎです。チームの要はあきらかにあのひとだ(笑)

新作にあたってどんなエピソードが見たいのかを、ファンではなくスタッフにアンケート取ったのだそうで、そういうことをやったアニメも無いように思います。

 

藤原啓治さんは本作が遺作ということになるのでしょうか、新作パートのサネアツ副船長の演技はこれまでとまったく変わらぬ楽しい芝居で、いまでもちょっと、亡くなったことが信じられない気持ちではありますね…

 

まあやはり飛行機プラモが作りたくなる映画ではある。ファインモールドの1/72隼が一般流通してくれればいいのにな(´・ω・`)

いまでもモデルカステンのオンラインストアで入手は可能なんですが、2機分のパーツと本来別売りのデカールをセットというイレギュラーな販売方法で、おまけにデカールのVol.1(キリエ&チカ機)はセットから除外するというその、

http://www.modelkasten.com/modelkasten/

*1:飛行機アニメ自体は時々出てくるのだけれど、ほぼ死屍累々という感がある

佐藤亜紀「黄金列車」

黄金列車

黄金列車

  • 作者:佐藤 亜紀
  • 発売日: 2019/10/31
  • メディア: 単行本
 

「スウィングしなけりゃ意味がない」*1に続く第二次世界大戦もの。あちらがドイツの無軌道な若者であったのに対して、こちらはハンガリーの中年~初老の公務員たちが主体となる。タイトルになっている「黄金列車」というのは大戦末期にハンガリーの国有資産を鉄道で疎開させようと実際に有った出来事だそうで、国有資産というのはつまりユダヤ人没収財産である。お話そのものはフィクションで、主人公バログは妻を亡くした初老の(というか老け込んだ中年か)の官吏で、この他にも様々な人物がいかにも役人的な手法を駆使して老獪に危機を乗り越えていく。とはいえ積んでる物は後ろめたい代物ではあるし、ユダヤ資産管理委員会のメンバーも決して正義とか善行を成し遂げているわけでもなく、必要であれば買収も贈賄も(実に役人的に)行い、建前と矜持を守ってまあいろいろ。

走馬灯のようにバログの回想が挿入され、ユダヤハンガリー人であった旧友のヴァイスラーとその一家、バログ自身と妻のカタリンとの生活がいかに時代に翻弄され、破壊されていったのかが段々と明らかになっていく構成。人生も下り坂に入ってくるとこういう話は滲みるもので、「スウィングしなけりゃ意味がない」の勢いの良さとは違った味わいでもある。ほとんどのキャラクターは創作のものだけれど何人か実在の人物がいて、知る人ぞ知る「イッタ―城の戦い」と交錯していたのがちょっと面白かった。それに気づかされるのは巻末の覚書を読んでのことではあるのだけれど。

しかしタイトルの割に地味で陰鬱な装丁なのは、それはまさしく作中の雰囲気を表していてこれはよいな…と思う。

 

人生の下り坂にあって自分ではない誰か他の人間に希望を託したく思っているひとにはおすすめ。

 

金原瑞人 編訳「八月の暑さのなかで」

八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)

八月の暑さのなかで――ホラー短編集 (岩波少年文庫)

  • 発売日: 2010/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

暑いから読んだ。

 

というのはまあ、一面の真実ではあるのだけれど、岩波少年文庫の児童向け作品にも海外ホラーアンソロジーなんてあるんだなと、そこに興味を持ったのも確かだ。訳者の趣味(と、おそらくは権利関係のモロモロ)によって選ばれた作品はポーやダンセイニどれも古典と言っていいようなものばかりで、いちばん新しいものでも1950年代かな?半世紀以上前の「こわい話」が、はて21世紀の読書子に果たしてどこまで好まれたのかかは、なんとも思いかねるところがある。よく読めばどの作品も執筆当時の「モダンな恐怖」を題材にしていて、伝記的なものやあるいはグロテスクなものは注意深く外されている。そこの妙技はさすがの手腕であって、あとがきで自分が子供のころ読んだ怖い話だ、みたいなことを書くよりはそこを強調してもよかったような気がする。

既読もいくつかあったけれど、児童向けの訳文で見るのはやはり新鮮でありました。

 

このシリーズ続刊があって、次巻ではダールの「南から来た男」が表題作に選ばれているらしい。最近カズレーザーのおかげで再度注目されたそうで、あんがいイマドキの子供たちにも受けは良いのかも知れないなあ。

 

 

南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)

南から来た男 ホラー短編集2 (岩波少年文庫)

  • 発売日: 2012/07/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

松田未来・※Kome「夜光雲のサリッサ 05」

夜光雲のサリッサ 5 (リュウコミックス)

夜光雲のサリッサ 5 (リュウコミックス)

 

今巻でようやく12人目と13人目の「火球の子」が登場し、これで役者が勢ぞろい…あれ4巻で12人出てなかったかしらと思ったら、なるほど怪人少女のエデスは別カウントなのか。前回あまり出番がないなーと言ってた中国の星三兄弟が今回は割とメインの戦闘で、こういうお話がまだ描ける社会であってほしいものです。

社会、社会の変化は今回の大きなエピソードで、IOSSと天翔体との戦闘が広く人間社会に報知されたり、天主の座す軌道エレベーターには「先住者」のウルティムムが降り立ったりする。これは大きなレベルだけれど、忍の母がIOSSに参加するのもまた、ささやかながら社会の変化でもあるのだろう。

これまでずっと新キャラクターと新しい戦闘機でストーリーを展開させてきたので、この先はちょっと違う流れになるのかな ?とはいえ次巻に準備されるEF-111と13人目の火球の子ガウリカの活躍に期待するところ大な訳です。

 

だって褐色おさげ眼鏡っ子可変翼戦闘機ですよ!!!!!

 

いやま、連載読めばいいじゃないかって話もあるんですが、本作に関してはここまで単行本派で来たものですしねw