ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

M・ジョン・ハリスン「ヴィリコニウム パステル都市の物語」

 

昨年読んだサンリオSF文庫パステル都市」*1の新訳版に加えてヴィリコニウムもの短編4本を収録。翻訳はどちらも同じ大和田始によるもので、40年以上の時を経て遥かに読みやすくなっている。というか新訳されると知っていたら(ナイトランド・クォータリーで短編が訳出されていると知っていたら)去年無理してサンリオ版買わなかったろうなあ(笑)

文章もこなれて版型も活字も大きくなり、実際ほんとに読みやすい。肩透かしの連続を食らっていたような「パステル都市」初読時の感想に比べて、なるほどこれは滅びゆく世界を舞台にした英雄不在の物語なのだなーと受け止められた。心境の変化のひとつにはアニメの「平家物語」を視聴し始めた影響も多分ある。世界が滅びるときには誰も彼もがただの人なんだろうな。

短編4つは捉えどころが難しいようにも感じたけれど、英雄不在のアンチヒロイズムというまなざしは共通しているように思う、マイケル・ムアコックが例えばエルリックでやったようなアンチ・ヒーローともちょっと違ってなにかこう、もの悲しいのだ。もういちど頭から読み返してみようと思う。そこでまた発見あるやもしれぬ。

今年の一番について考える

今年も終わりですね。人生はまだ終わりませんね。「自分はいつ焼き切れるのか」というより「まだ自分が焼き切れていないのは何故だ」を問い続けるような一年ではありましたが、人生は斯様にダラダラと続いていくのだろうな。

 

・本

今年読んだ本のベストは2つあって「機龍警察 白骨街道」と「同志少女よ、敵を撃て」です。考えてみればどちらもハヤカワなんだよなー。2冊共に「ハードボイルドってなんだろう」てなことを非常に考えさせられました。ハードボイルドってなんだろう?自分が自分であり続ける事、自分自身を貫き通す事、自分を曲げろと言われたときに、毅然としてそれに立ち向かいNOを叩きつける事。そういうことなのかも知れません。またどちらも冒険小説であって、これを機に冒険小説復権という声も聞こえますが、冒険小説が流行っていた頃の作品に再度版権料を支払ってペイできるほどの復権が期待できるかと言えば難しいのだろうなあ…

 

良い図書館と良い古書店、それこそが知の保存庫であるのかもだ。

 

・映画

例によってアニメしか見てないけれど、今年はアニメ映画の当たり年であったような気がします。コロナによって公開がズレこんで傑作渋滞みたいな感もあるけれど、それも決して悪いことでは無いでしょう。ガルパン最終章3話、ポンポさん、ハサウェイ、アイの歌声と、どれもいい作品ですが、やっぱり今年の一番は「シン・エヴァンゲリオン劇場版Repeat close.png」でありましょう。なにしろ3億点の映画だ( ˘ω˘ )

 

・アニメ

ゴジラSP」と「かげきしょうじょ!!」が良かったですね。次点でダイナゼノンかな。山ほど流れてるTVアニメの、ほんのわずかな本数しか見られていないのだけれど、自分の見ているのは結構上澄みの方なんだろうなと思うのは、たま~に深夜全然知らない作品を見てナンダコリャな気分になることも多々あって…でね。しかし見逃した良作というのもいくつもあるのだろうな(´・ω・`)

 

・プラモ

今年のプラモはアレが良かったコレが良かった言うよりガンプラ(及び一部バンダイ製品)の異常な品薄が一番印象に残る。それは決して転売屋が引き起こした事態ではないにせよ、転売屋はその状況をますます悪化させている張本人なので滅ぶべきである(#゚Д゚) コロナ禍による巣ごもり需要の増加と、コロナ禍による工場閉鎖がもたらした原材料不足はもちろん大きいのだけれど、ここ数年(いや十数年以上だよな)掛けて醸成したきた海外市場での人気増大や、長期シリーズ化によるいわゆる「再販の谷間」現象など、これまでじわじわ進んできたいくつもの事情が一気にレッドラインを越えちまったと、結局はそういうことなんでしょうね。そんでもって売れないものは売れないし、ガンプラ以外のキャラクターモデルやスケールモデルで需要と市場を支えきれないことも露呈してしまったしで、この先量販店の模型棚ってどうなるんだろう?結構悲観的ではあります。

 

あー、タコムの突撃榴弾砲良かったですね。作りたいですね―あれ。

 

今年を振り返るとそんなところか。来年どうなるんだろうなあ、コロナも終わらんしね…

 

そうそう、今年はクラウドファウンディングに参加したプラモデルが無事製品化したり、ピクシブで支援している方が本を出されたりと、そういうお手伝いが出来た一年でもありました。それは悪くないことで。

ジョン・スコルジー「星間帝国の皇女―ラスト・エンペロー―」

そーいやこれ読んでなかったなあと年末最後の一冊。お話としてはまあ、ありがちで、本人は望まずに皇帝の地位に就いた主人公カーデニアと、実は崩壊寸前の危機にある銀河帝国”インターディペンデンシー”の存亡を巡る物語。フローと呼ばれる恒星間ネットワーク航路(トラベラーだよな)によって成立している人類文明が、そのフロー消失からどう生き延びるか…というストーリーに敵対者があり、友好勢力がありと。

会話は洒脱で構成もテンポがよく、キャラクターは魅力的です。それがあるから古い物語でも現代に受け入れらるのだろうな。ジェンダー感など、これまでのスコルジー作品に見受けられる特徴もそのままで。

 

しかしこれ翻訳出たの2018年なんだけど続刊はどうなってるんだろう?アメリカでは混交されているそうだけど。

 

ああ、そこそこ未来の世界なんだけど会議でレポート閲覧するのにホチキス止めのプリント回すところはちょっと笑ったw

 

劉 慈欣「火守」

「三体」の人の作品だけれど俺「三体」読んでない(´・ω・`) 池澤春菜嬢の翻訳本ということで手にしました。マルチリンガル面目躍如だ。

絵本と聞いていたけれど新書サイズの短編で、各ページに挿絵が付いてるという、いちばん近いのは「星の王子様」かな?あのような感じの幻想小説です。三日月の船に乗り星の海を進んで愛する女性の命を救い、海中から登る太陽に毎日火を灯す。理不尽だけどもどこか幸福な夢のよう、主人公のサシャが(ある意味では)世捨て人のような暮らしに収まってしまうのも、常命の人間としては度が過ぎる行為に及んだ代償か。

 

これ挿絵も日本の作家によるものなんだけど、原書ではどうなってるんでしょうね?

 

ああ、発見しました。なるほどこういうものか。オリジナルは確かに絵本っぽいなあ

 

www.amazon.com

 

速水螺旋人「ワルプルギス実行委員実行する」

 

版元・掲載誌は違えど「螺旋人同時上映」*1以来の?短編集。しかしあれからもう5年も経ってるのか―、な一冊。短編集の良さというのはやっぱり藤子不二雄の異色短編集あたりで刷り込まれたものなんだろうなあ。毎月ワンアイデアで新作を描き下ろしていくというのは、長編を書き続ける事とはまた別の技術能力が要求されると思われる。どれも楽しいのだけれど唯一原作が付いてる「外套」(ゴーゴリですよ)がすさまじく異色で、なんでロボットが出てくんねん!と思わせつつ、これをロボットにすることで確かに原作の持つニュアンスを強化している…の、だろう。なにしろ原作読んでないので(えー

 

ファンタジー色の強い話が多いけれど、コロナウイルスであったりヨーロッパの難民問題であったりという、現代社会の「いま、ここにある危機」を取り込んでるのは良いですね。こういう微妙なところに触れて且つ重過ぎなく消化できるのも、それも短編のちからかな。

 

 

大森望・編「星雲賞短編SF傑作選 てのひらの宇宙」

歴代の星雲賞短編部門受賞作品から、ボリュームなどある程度の基準によって選択し編纂されたアンソロジー。有名なもので既読なものも多いが、有名なもので未読なものも多く、まだ全然知らなかった作品も有り、なかなか面白かった。手に取ったいちばんの理由はタイトルなのだけれど、これについては

 

創元SFの名アンソロジーフレドリック・ブラウン&マックス・レナルズ編『SFカーニバル』にもオマージュを捧げつつ、『SFフェスティバル』というメインタイトルはどうかと提案したが、編集部にすげなく却下され、現在の無難な題名になりました。

 

とある(序より)。

 

>現在の無難な題名

>無難な題名

>無難

 

あやまれ!岩男潤子ファンにあやまれ!!(#^ω^)ビキビキ

 

それはともかく。

既読作品のほとんどはまだ十代の頃に読んだもので、本書が今の十代の読書子にどう読まれるのかな?というのはちょっと気になりました。全体として「星雲賞とは何ぞや」みたいなことのチュートリアルにもなっているのだろうなこの本。しかし十代の頃に早川のJAで読んだものがほとんど絶版で、創元に拾われて世に出るというのは、それはどうなんだろうなあとか思う、ハヤカワ文庫JA1500冊の年の暮れ(´・ω・`)

 

川村拓「事情を知らない転校生がグイグイくる。」⑩

どんどん普通の日常マンガになっていくような気がする第10巻。それでも「父の日」のようなイベントは起こるし、日常の中にあっても小さな嵐は時々起こる、と。

水口くんにはもっと頑張ってほしい所存であります(´・ω・`)