ひとやすみ読書日記(第二版)

最近あんまり読んでませんが

人間六度「過去を喰らう」

さなコン関連で読んでみようと思い、読む。このひとの作品は以前「2084年のSF」で「星の恋バナ」を読んでいて、たいへん面白かった記憶がありました。(長文エントリーに付き注意)

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そして本書は楽曲のノベライズだという話なので、事前にPVを見ておきました。

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バーチャルシンガーってそもそもナニ?という極めて根本的なところで解ってないところはあるのだけれど、ちょっと前に言われた「ボカロ小説」みたいなものなのかな?「ボカロ小説」ってひとつも読んだことないんだけどな(´・ω・`)

 

そのあたりを前段にして読んだわけです。なんらかのフィードバックを受け取れたらなーとか、そういう目論見が確かにありました。

フィードバックどころじゃねえ。ブッ刺さった(´・ω・`)

AIが人を助ける、転校生として主人公の前に現れたAIの少女が主人公を救う。そういう構図を見てすぐに思い出したのは「アイの歌声を聴かせて」で、そのことは明記しておきたい。黙っていればこの感想文がウソになるからね。

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AIの意識覚醒と志向の決定が主人公の過去の言動によるものだ、という点でもこの2作は共通しているんだな考えてみれば。物語の目指すところ、描いたものはまったく異なるものと思いますが。

且つて志した創作活動(漫画を描く)を一度は諦めていた主人公が、挫折の原因となったAI漫画家ロボ娘、それは自分自身を投影して作られた半身のような存在でもある、と出会い、いくつかの逡巡と不安を乗り越えて夢を叶える。大筋はそういうものなのだけれど、高校三年生のもつ不安と戸惑いというのがなんかこう、この歳になるとググッとくるわけですよ。

それから、少しだけサメが出てきます…と思ったら結構サメ要素強いな!作中でユウカが再び筆を取る作品「白牙のアンカーヘッド」の主役はサメ人間少女だった。しかも当初の構想を超えて主役の座をイワシ君から奪うというなんか素晴らしいですよサメガール!

『これは一体誰の物語なのか――』

その問いかけは作中作だけではなくて、物語全体にも響いているように思います。ユウカにはユウカの物語があったように、リュッカにも詠太にも、千郷にもそれぞれの物語がある。10代ってそういう時で、本人が思うよりも遥かに重大な時期である。エリカ先生にも物語はあったんじゃないかな昔はな(´・ω・`)

一人称で記された作品だけれど、時折視点人物の違う章を交えることによってお話の重層化を見せる。基本だけれどうーん基本だけに?迂闊にやると失敗することもあるでしょう。でもユウカとリュッカの視点を交錯させるようでいて、そこで急に千郷の視点が入って来た時はいい意味で鳥肌の立つ感覚でした。誰にだって物語はあるんです。

 

過去は栄養だな。過去を食べよう。大体そういうお話(なのか)。

リュッカの連れている一種の情報収集デバイスラプラス」が街をハッキングする様はたしかにPVの映像を強烈にイメージさせました。メディアミックスですねえ。本編中でいくつかキーワードのように語られる言葉はオリジナルの歌詞にあって、そのへんも楽曲のノベライズ化ではあるのかなるほどフムン……。

そして雨流語録がやたらとカッチョ良い。ああいうものは他人の口から語られるからよいのだろうな。それが自分自身の言葉だったらそりゃもう燃やすでしょうすぐ火をつけて消し炭になるまで燃やすでしょう。10代の熱量ってきっとそういうものです。

『あまねく世界で私だけだ、未来の私を変えることが出来るのは――』

 

読んでいて自分が高校三年生だった時期のことを思い出したものです。ある朝、一限の授業に出たらまだ教室には誰もいなくて、1階の窓から外を見れば前夜の雨に打たれて萎んだ風船が木の枝に引っかかってぶら下がっていた。

ぼくはそれをずっと見ていた。

いまの自分はあんな感じなんだろうなあとか、そんなことを思っていた。もうおしまいなんだろうなあって。

それは間違いでした。

おしまいになるのはもう少しあとのことでした。